前田健太。その名を口にするだけで、マツダスタジアムの歓声が蘇る。2008年、20歳の右腕がプロの扉を開けた。そして2010年、彼は一気に頂点へと駆け上がった。最多勝、最優秀防御率、最多奪三振。史上最年少での投手三冠王。沢村賞、ベストナイン、ゴールデングラブ賞、最優秀投手。あらゆるタイトルを手にした22歳の姿は、まさに無敵だった。
その後も、最優秀防御率を2年連続で獲得し、2015年には完封なしながら2度目の沢村賞に輝いた。ゴールデングラブ賞は5度。
石原慶幸とのバッテリーで2度の最優秀バッテリー賞。オールスターのマウンドでMVPを獲得した夜の、あの誇らしげな笑顔を、私たちは忘れない。
そして2015年オフ、マエケンはMLBという大海原へと漕ぎ出した。ドジャースの青、ツインズの紺、タイガースの縦縞。10年という歳月は決して短くない。
異国の地で彼が積み重ねた一球一球を、私たちは遠く日本から見守り続けた。勝利の日には共に喜び、苦しい日には祈るように画面を見つめた。
皮肉なことに、マエケンが去った翌年、カープは黄金期を迎えた。2016年から3年連続のセリーグ制覇。私たちは歓喜に沸いた。だが同時に心のどこかで思っていた。カープのエース・マエケンがこのマウンドにいたなら、と...
黒田博樹が37歳で古巣に戻り、優勝の喜びを味わったように、マエケンにもその機会を与えたい。優勝の瞬間を、あの背中と共に迎え、分かち合いたい。
マエケンが日本球界への復帰を決めた。所属先は未定だ。もし彼がカープに戻れば、投手陣最年長となる。
かつて共に戦った堂林や會澤、そして彼の背中を追いかけてきた若き投手たち。森下暢仁も、床田寛樹も、みんなが待っている。
同じくメジャーから帰還した秋山翔吾も、同年代の仲間として彼を迎え入れるだろう。「マエケン」と呼ぶ声がすでに広島中に響いているような気がする。
先発でもリリーフでも、どんな形でもいい。メジャー10年間で磨き上げた技術、プロフェッショナルとしての矜持、そして何より、世界の頂点で戦い抜いた魂とスピリットを、若き鯉たちに継承してほしい。
マエケンが語る一言一言が、きっと後輩たちの糧となる。マエケンの存在そのものがチームの財産となる。
カープファンとマツダスタジアムは、いつでもマエケンを待っている。赤いユニフォームは、いつでもマエケンを迎え入れる準備ができている。
帰ってきてほしい。先発でも中継ぎでも、なんでもいい。ただ、戻ってきてくれ。広島のこの場所へ。