佐々木先生、ご返信と丁寧なご説明をいただき、誠にありがとうございます。面識がないにもかかわらず、SNS上での応酬となってしまった非礼をお詫び申し上げます。
私が専ら申し上げたかったのは、佐々木先生および関連法人が「実態のないMS法人による業務委託で『中抜き』して利益を得ている」ということでは決してありません。
その点がミスリードとなり、多くの関係者にご負担やご心痛をおかけしたとすれば、これは完全に私の不徳の致すところであり、慚愧に堪えません。
誠に申し訳ありませんでした。
そのうえで私が申し上げたかったのは、医療法人制度と関連法人(いわゆるMS法人)との関係性が、どうしても不透明になりやすい構造を抱えているという制度上の問題点です。
医療法人は本来、非営利を原則とし、公的保険財源を扱う存在です。
しかし、関連する営利法人への業務委託というスキームを通じて、実質的な利益移転や親族間取引が発生しているように見えるケースが、少なくともいくつかの事例で散見されます。
これは特定の誰かの問題ではなく、制度全体の透明性とガバナンスの在り方として検討すべき課題だと考えています。
とりわけ佐々木先生も言葉を尽くして説明をされている
●MS法人の代表や役員の人事(親族が就任されるケース)
●委託費の適正性や取引実態の透明性
この点については非常に難しい問題をはらんでいます。
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親族だからではなく、実務能力でその人事になっている。わかります。きっと本当にそうなんです。
自分たちの事業に精通していて、人脈も重複しており幅広く、なおかつ信頼ができて裏切らない。そんな人材ほど身近にいるものですから、取引先として重宝したい。
むちゃくちゃよくわかります。私だってそうしたいし、できるものならきっとそうする。
しかしごく直近に、某党で能力・実績を重視して自分にごく近しい秘書に公金から業務を発注した事例が強く問題視され、大きな批判を浴びました(私はいまこの政党の所属ではないので、事例としてあげるのも申し訳ないのですが)。
双方から一緒にするなと怒られそうですが、構図としてはこれに近いものがあります。
政党助成金も診療報酬も原資は公金(税金や社会保険料)ですから、その使途は民間企業以上の妥当性が求められる。
しかし医療法人とMS法人では親族の兼任が制限付きながら認められ、多くのケースで確認されており、これが疑念を招く大きな要因になっています。
後述する業務委託費とも課題は重複しますが、「余人を持って代えがたい」というのは数字やデータなどで証明できないことが、この問題を複雑化しています。
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業務実態についても、明瞭な文章で詳細な説明をいただきました。
そして多くの関係者・知人からも個別連絡で「電子カルテ開発やコールセンターなど、どれだけ医療界に佐々木先生たちが貢献されているか」というご指摘が私の方にもありました。
先生のご説明についても、その通りなのだろうと思いますし、業務内容やその多大なる貢献を疑う気は毛頭ありません。
ただ、金額との妥当性については、これは居直りでも批判でもなく、本当に「わからない」のです。
悠翔会の事業報告書は公開データとして入手でき、そこで業務委託費として約16.7億円という数字が確認できます。
(※この支出が掲載されていることから、当該法人は悠翔会「だけ」と取引しているMS企業ではないとしても、法に規定された関連事業者≒いわゆるMS企業ではあるはずです)
これが業務委託費ではなくて関連法人の「年商」だとする表現については、明瞭な先生の説明の中で唯一腹落ちしない部分だったのですが、いずれにしても関連法人の方は決算書などで詳細が公開されていないので数字の面については把握ができません。
もちろんこちらは民間企業ですから、業務委託費の妥当性を示すために、取引先の内訳や人件費・開発費あるいは再委託費などまで詳細を公開する責務は現在のところありません。
民間の商慣習として当然ですし、それはよくわかります。
一方でそのことが、
●佐々木先生の関連法人のように、実態と確かな実績を伴って活動されている関連法人と
●節税や利益配当スキームのために少なからず存在しているであろう親族MS法人
との峻別を極めて困難にしており、これが不幸な分断と不信を招く要因になっています。
そしてこの部分こそが、制度的にも心理的にも乗り越えるべき壁・課題なんだろうと感じています。
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MS法人とそのあり方についてはこれまでもたびたび議論になり、国会審議などでも取り上げられてきました。大きくいえば、医療制度全体にも関わる深遠な課題です。
今後の方向性としては、
●一部から声が上がっているように、もはや医療法人にもより広い営利活動を認め、ガバナンスのもとで市場原理を導入するのか
●あるいは欧州のように公的主体による運営を強化するのか
●ファイナンスとデリバリーが公/営で分離されている現行制度の枠内で、取引の透明性をさらに高める仕組みを整えるのか
いずれにしても、現場の努力と誠実な経営を正当に評価しつつ、不信や誤解を生まない制度づくりが求められます。
この度は私の拙い発信によりご迷惑をおかけしたことを、改めて心よりお詫び致します。
政治が果たすべきは、批判や対立を煽ることではなく、現場の知恵を政策へとつなぐ橋渡しでありことを肝に銘じます。
私自身も佐々木先生をはじめ、医療現場を支える方々と真摯に向き合いながら、制度の信頼性を高めるための議論を今後も重ねていければと存じます。
今後ともご指導ご鞭撻をいただければ幸いです
佐々木せっかく音喜多さんがこれまでにないスケールで私たちについて拡散くださったのですが、誤認と誤解によるミスリードがありますので、この機会にわたしたち悠翔会の取り組みと業務委託含む運営上の工夫をきちんとお伝えしたいと思います。
長文が苦手な方はスルーしてください。
まず悠翔会について。
私が2006年に立ち上げた在宅医療を中心に取り組む広域医療法人です。首都圏に21拠点、沖縄・鹿児島の離島、知多半島など人口減少地域でも診療所を運営、常勤医師75名+非常勤医師100名+コメディカル300名の体制で、常時約1万人の患者さんを24時間体制で支えています。手前みそで恐縮ですが優秀で志高い専門職が集まってくれています。
在宅医療の対象は通院困難かつ継続的な医学管理が必要な方。
訪問先は居宅が中心ですが、ご紹介いただくケースの過半数は緩和医療が必要な終末期がんの方。加えて要介護高齢者、臓器障害、神経難病、小児疾患、精神疾患など0歳から100歳超まで、人工呼吸器から輸血まで、多様な医療ニーズに包括対応できるチーム体制を確保、毎年新たに4-5千人の患者さんが在宅療養をスタートされています。
利益よりも理想を追求する。
これは私たちが大切にしている行動規範の1つです。
患者さんごとに最適な診療頻度で的確な健康管理を行うことで「急変」を最小限に抑える。
急変時は迅速に対応+自宅で診断・治療を行うことで救急搬送・入院を最小限に抑える。
丁寧に意思決定を重ねながら最適な緩和ケアを提供することで最後まで安心・納得して自宅で過ごせる。
地域の病院・薬局・看護介護専門職の方々と連携しながら、そんな在宅療養支援を目指しています。
昨年度は音喜多さんが既に共有されている通り約63億円の診療収入がありました。
年間診療件数15万件、緊急対応4万件、そして3千人の旅立ちに伴走する25診療所の収入の総和です。在宅医療の経営経験のある方には、重症や末期がんの比重が大きい割に、患者一人あたりの診療回数も診療費も低めに感じられるかもしれません。なお在宅がん医療総合診療料はほとんど算定していません。
医療機関の収入=社会保障費の支出です。
私は、保険医療機関にはその収入(=社会の支出)に対する説明責任があると思いますし、費用負担者(保険者・納税者=一般国民)の立場で考えれば「より少ない支出で、より大きな価値」を求めて当然だと思います。
だからこそ私たちは毎年レポートを発行し、患者・地域・社会に具体的にどのような価値を提供できたのか診療アウトカムを詳細に報告、毎年末には業績報告会を開催し、収入や支出に対する詳細な説明を行っています。(前年までのものはサイトで公開していますし、2025年8月までの実績をまとめた縮刷版もまもなくリリース予定です)
例えば悠翔会の管理患者の平均入院日数は年間12日前後。一方、在宅医療導入前の平均入院日数は年間約42日。在宅医療は「一人あたり年間30日の入院を削減」する。1万人の患者が30日入院を減らす=30万日分の入院を回避することで削減できた医療費は、私たちの診療収入の軽く2倍以上になるはずです。
在宅医療は高額だ、贅沢だ、自費にしろとご意見を頂戴します。しかし「高いか安いか」の基準は絶対値ではなく、その対価に対する相対的判断であるはず。私は、在宅医療はきちんと機能すれば「救急搬送を減らし、入院を減らすことで、社会保障費を下げる」ことができる可能性があると考えています。
そこで私たちは「入院(再入院)の抑制」を在宅医療の医学モデルKPIに設定し、改善のためのフィードバックを続けています。ここ2年は、特に急性期の在宅治療、退院直後の再入院抑制、がん患者の早期退院にフォーカスして、法人としての取り組みを強化しています。
治らない病気や障害があっても、安心して生活が継続できる、納得して人生を生き切れる。
これが在宅医療の保険診療として果たすべき役割だと私は理解しています。
そして患者・家族のQOLや尊厳の保持のみならず、社会保障費を含む医療資源の適正利用化にも貢献できる。そんな在宅医療を実現すべく19年間全力で取り組んできました。
他の先進国では急性期の在宅治療、在宅での術後管理、在宅での抗癌剤治療などが行われています(在宅入院制度)。在宅での対応範囲を拡げることで、患者の通院負担を軽減し、より少ない病床数(人口比で日本の25~50%)で地域医療を維持しています。
「病院を守る」ことはとても大切ですが、社会保障費の費用対効果を考えるなら、外来や在宅医療の機能強化も含め、もう少し俯瞰的に医療を見ていただけたらと思っています。
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次に悠翔会の運営上の取り組みについて。
悠翔会の成長を支える大きな要因は「診療と経営・運営の分離」です。
これにより診療外業務を最小化し、医療専門職は診療に専念できる環境を作ることができます。診療チームは「利益より理想」を追求し、経営支援チームはそんな診療チームの活動と持続可能性をサポートする、そんなイメージです。
私は理事長ですが、週4日在宅医として診療に従事、千葉市内で100人超の在宅患者の主治医を継続、年100を超える講演依頼等に対応、加えて医師会のDuty、休日診療や夜勤、委員会活動等も担当しています。
管理業務に充てられるのは1日平均1.5時間程度。それでも職員500人・28事業所の安定的な組織運営ができるのはプロのサポートがあるから。
それがメディカルインフォマティクスによるDxとBPOです。
悠翔会は診療以外の業務をプロに任せることで、業務効率を改善し非中核コストを削減してきました。そして捻出できた限られた収支の中で、黒字化できない離島医療や在宅栄養などの事業を継続し、職員に対する待遇改善、診療力の強化、診療拠点の新規開設・拡張移転など地域と未来への投資を続けています。
これは秘密でもなんでもありません。
これらは年次報告にも記載していますし、この取り組みによって悠翔会は船井財団による「グレートカンパニーアワード」を2回受賞しています。
音喜多さんが「悠翔会への業務委託費」として記載された17億円は同社の「年商」です。同社は「悠翔会のMS法人」ではなく、200を超える在宅医療機関に業務支援サービスを提供する独立事業会社です。
在宅医療部門・クリニックの立ち上げ支援、現場の運営支援(事務長機能)、クラウドシステム(業務基幹システム・電子カルテシステム(医科・訪看))、24時間コールセンター、診療品質評価、請求代行、人材紹介・採用支援を含むコーポレートサービス(人事、経理、財務、総務、法務などのバックオフィス全般)など、同社は、経営者や事務長のみなさんのかゆいところに手が届く、幅広いサービスを提供しています。
コストパフォーマンスが高いので、在宅医療機関の経営者の皆様は一度お問い合わせいただけたらと思います。多くのクライアントが質量両面で大きく成長をされています。
私も一クライアントとして同社のサービスを利用しています。同社のサービスに厳しく注文を付けることもあるし、コストが見合わない部分は値下げも要求しています。領域によってはもちろん同社以外に業務委託しています。
私の父についても問題視されていますが、彼が代表を務めているのは、親族だからではなく適材だからです。
彼は国内外のベンチャー投資や海外企業を含むマネジメント経験が豊富で、国際的な人脈があります。同社の主要職員の多くは彼のリファラル、電子カルテシステム開発のイニシアチブ、コールセンター事業の立ち上げ、インドやインドネシアなど新興国におけるヘルスケア事業の立ち上げなど、多くの実績もあります。親族に利益を流している、というよりも、親族だから安く力を貸してくれている、というのが実際のところです。
もちろん、いずれ世代交代が必要になると思いますが、もし適任の方がおられたらぜひご紹介いただけたらと思います。父とともにずっと探しているのですが、なかなか見つからないのです。
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医療機関の多くは爪に火をともすような経営を強いられています。
私たちも決して楽ではない。今年度はなんとか黒字、納税をさせていただけそうですが、過去3期連続で赤字でした。
実は診療所には大規模化のスケールメリットはあまりありません。管理コストはむしろ増大し、一人開業医より経営は複雑になります。しかし規模の価値を最大化し、そこから提供できる地域への価値も最大化する、私たちはそのための試行錯誤を重ねてきました。
国が主張するように、医療Dxは強力に推進すべきです。しかし、その原資は自分たちで確保するしかありません。営利法人ではないので資金調達の方法も限られます。そんな中で、システム投資を行い、ベンダーとメンテナンス契約を結ぶ。診療所の経常利益6%が問題視されるような状況でどうしたらそのための内部留保を確保できるのでしょうか。
私たちは電子カルテベンダーに支払う利用料を節約するために、自分たちで電子カルテの開発・保守を行い、さらに他のユーザーを増やすことで、コストを分担しさらに利用料を引き下げていく、そんな目論見で電子カルテ開発会社を作りました。
クラウド型電子カルテシステムで患者情報共有が容易になったので、地域の在宅医の先生方の休日夜間対応のバックアップも始めました。これより、休日夜間の当直コストを連携する仲間で分担し、クリニックごとの経済的負担を小さくしました。
小規模なクリニックでは、人材の過剰配置が起こりがち。ゼロは困るけど、1人分の仕事はない。1人だと足りないけど2人だと多い。そんなニーズに応えるために請求や車両運行など機能単位のBPOを進め、優れた専門職が少ない人件費でサポートできる体制を作りました。
居宅療養管理指導のための診療情報提供書など、在宅医療ではさまざまな書類が求められます。悠翔会が発行する書類は年間20万枚以上。各クリニックの専門職がこれらの印刷・封管などの作業を強いられるのは非生産的。コンタクトセンターを作り、集中処理することで、時間とコストを削減しました。
総務、人事、経理、財務、法務・・・これらのコーポレート機能もクラウド化・BPO化することで、専門人材を雇用する必要がなくなり、より少ないコストと手間で、より高度な対応ができるようになりました。
民間医療機関の多くは生き残るために、診療を継続するために、小さな工夫と努力を重ねてきました。もちろん電子カルテの自主開発も、コールセンターの設立も、すべて経営的なリスクを伴います。それらを乗り越えて、ようやく今があるのです。
医療改革について発信力のある方によって、あたかもそれが害悪かのような印象付けをされたことは非常に残念です。しかし、私はDxとBPOを基軸とするMS法人による診療外業務のサポートは医療の質と経営の質を両立するために重要な手段だと考えています。
せっかくの機会なので、私たち医療者がどんな気持ちで在宅医療に取り組んでいるのか、それを維持するためにどんな工夫をしてきたのか知っていただけたらと思い、気が付いたらこんな長文になっていました。
長文お付き合いくださり、ありがとうございました。
医療機関経営は年々厳しさを増していますが、それは社会保険料を負担してくださっている一般市民のみなさんの生活も同じですね。
私たちは医療提供者としてのみならず、社会保険料を負担する一人の費用負担者の立場でも、自分たちの医療がその収入を超える価値を提供できているか、常に意識しながら、よりよい医療を多くの人に届ける努力を続けていきたいと思います。
最後にこの発信によって共に働く仲間が傷つけられ、外部からの問い合わせ等の対応が生じていることをお伝えしておきます。患者さんからの緊急コールに対応しなければならない私たちにとって電話回線の占有は望ましいことではありません。
最後に私たちの意図を理解し、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。心より感謝申し上げます。
みなさんを失望させないためにも、これからも全力でよりよい在宅医療の提供に取り組んでまいります。
医療法人社団悠翔会
理事長 佐々木 淳